進化の早いテクノロジーの世界で、IT サービスプロバイダーは、サービスの提供に関する意思決定を機敏かつ戦略的に行う必要があります。顧客のニーズを理解し、需要を正確に予測して、これを満たすことができる企業は、競合他社より優位に立つことができます。
そこで ITIL サービス戦略が重要となります。
ITIL サービス戦略とは?
ご存知のとおり、ITIL(Information Technology Infrastructure Library の略)とは、ビジネスニーズに合わせて IT サービスを調整するのに役立つ、IT サービス管理のベストプラクティス集のことです。ITIL では、企業がリスクを管理し、顧客との関係を強化し、効率性を向上させ、安定的かつスケーラブルな IT 環境を構築するのに役立つ体系的なアプローチが使用されます。
ITIL サービスのライフサイクルは次の5つの段階で構成されています。
- サービス戦略
- サービス設計
- サービスの移行
- サービスオペレーション
- 継続的なサービス改善
ここでは、ITIL ライフサイクルの第1段階である「サービス戦略」に焦点を当てて説明します。
ITIL の「サービス戦略」段階は市場主導型で展開します。サービス戦略は、企業が提供すべきサービスの種類およびターゲットとする市場を決定するうえで役立ちます。その目的は、的を絞ったサービスを計画および提供するために戦略的な決定を下し、長期的な成長と成功を促進することです。
サービス戦略における4つの「P」とは?
サービス戦略段階には、「Perspective(観点)」「Position(ポジション)」「Plan(プラン)」「Pattern(パターン)」というPではじまる4つの構成要素があります。
これらの4つの「P」は、サービス戦略の指針となり、貴社がサービスプランの概要を決め、実行する際に不可欠な役割を果たします。これらの構成要素が1つでも欠ければ、戦略が成功する確率は低下します。ここでは、各構成要素の簡単な定義と役割をご紹介します。
- 観点:サービスにおけるビジョンや方向性を定めます。
- ポジション:貴社の戦略を競合他社のものと比較し、市場において貴社のポジショニングを最善のものとする方法を理解します。
- プラン:目標達成と全体的なビジョンの実現のために取るべき行動を特定します。
- パターン:貴社が長期的に無理なく実行できる、基本的かつ継続的な行動。これには、プロセス、ポリシー、スケジュール、予算、管理システムが含まれます。
ITIL の「サービス戦略」段階における5つのプロセス
「サービス戦略」段階には、次の5つのプロセスがあります。
- IT サービス戦略管理
- サービスポートフォリオ管理
- IT 財務管理
- 需要管理
- ビジネスリレーションシップマネジメント
これらのプロセスは連動し、継続的な改善につながる IT サービスのベストプラクティスの実行を確実にします。
1. IT サービス戦略管理
IT サービス戦略管理は、ITIL の「サービス戦略」段階で実行される最初のプロセスです。目的は、IT サービスとその管理が企業の利益と確実に一致するようにすることです。この段階で、サービス提供のための戦略を評価、定義、実行します。
精査
企業またはサービスプロバイダーの現在の市場でのポジションを見極めます。どのような機会や制約が貴社のサービスに影響を及ぼしていますか?貴社が提供するサービス、既存客およびターゲットとする顧客、競合他社が提供するサービスについて考える必要があります。
定義
ビジネスやサービスを取り巻く環境の評価に基づいて、サービスプロバイダーが追求すべき目標を明確に定義し、顧客セグメントごとに提供するサービスを特定・提案することができるようになります。
遂行
最後のステップは遂行です。このステップでは、戦略的イニシアチブを成功させるための戦略計画が重要になります。
2. IT 財務管理
IT 財務管理(別名、IT サービスの財務管理)で重要なことは、サービスの評価です。このプロセスでは会計、予算策定、サービスへの課金が行われるため、企業はこれらのサービスのコストをカバーし、利益を生み出すことができます。
これら3つのステップは、IT サービスの財務管理の基本事項として知られています。
経理
会計ステップは、IT サービスのコストを正確に把握するのに役立ちます。
このステップは訓練を受けた会計士が監督する必要があり、ここでは、費用便益分析の実行、カテゴリー別のコストの仕分け(ハードウェア費、ソフトウェア費、人件費、間接費、インフラ費など)、支出の詳細な記録が行われます。
目的は、コストを正確に把握して、コスト削減の機会を特定し、コストをより効率的に管理できるようにすることです。
予算編成
IT サービスを効果的かつ安定的に提供するためには、正確な予算策定が欠かせません。IT 予算策定は、サービスを円滑に運営し、ビジネス全体の IT サービス戦略をサポートするために必要な資金を計算・配分します。
予算は、次の3つの主要な IT 支出カテゴリーを監督します。
- 資本支出
- 運営コスト
- 戦略的投資
通常、予算策定計画は年に1回行われ、毎月定期的に監視されます。
課金
課金は、使用したサービスに基づいて顧客に請求するプロセスです。これには、料金体系の策定と、各サービスを提供するコストおよび価値を請け負うチャージバックシステムが含まれます。
3. サービスポートフォリオ管理
サービスポートフォリオ管理(SPM)では、パイプラインにあるサービスをライフサイクルにわたり監視します。SPMの目的は、各サービスが貴社のサービス管理戦略と目標に確実に一致するようにすることです。サービスをエンドツーエンドで監視することで、具体的なビジネス価値に基づいてニーズをより効果的に正当化できます。
サービスポートフォリオは、次の3つの要素で構成されています。
- サービスカタログ
- サービスパイプライン
- 廃止されたサービスカタログ
サービスカタログは、現在顧客に提供しているすべてのサービスをまとめたものです。
サービスパイプラインには、まだ顧客に提供されていないサービス(提案段階または開発段階にあるサービスなど)が含まれています。パイプラインでは、予測されるサービスのタイムラインと成長の軌跡の要点が明らかにされるため、サービスごとの戦略と計画を把握できます。
廃止されたサービスカタログは、基本的にアーカイブされたサービスを指します。廃止されたサービスは、記録用の関連文書とともにここで記録されます。SPMは、資金調達、設計、開発、テスト、展開におけるパイプラインを通じて各サービスを追跡します。
基本的なSPMは次の4ステップで構成されています。
- サービス案(または既存のサービスに対する変更案)の望ましい結果の明確化。
- サービス案または変更案がポートフォリオ内の他のサービスに与える影響の分析。サービスを提供するために必要なリソースの明確化。
- 正式に提案されたサービス案(または変更案)の承認後にスタートする設計段階。
- サービスの提供を成功させるため、サービスへの権利付与、決定事項の関係者への通知、リソースの配分。
このプロセスは各サービスのビジネスケースを作成し、次のような質問に答えるのに役立ちます。
- なぜこのサービスが必要か?
- このサービスが競合他社のサービスと異なる点は何か?
- このサービスの長所と短所は何か?
- リスクファクターをどのように管理すべきか?
- このサービスで使うリソースをどのように配分するのがベストか?
サービスポートフォリオの管理にはコミットメントと投資が必要ですが、それによるメリットは明白です。優れたSPMがあれば、顧客は貴社が提供するサービス(および価値)を正確に理解し、コストとリスクに関する透明性とコミュニケーションを向上させるだけではなく、あらゆる段階でサービスを追跡(および正当化)し、サービス運営の効率性を向上させることができます。
4. 需要管理
需要管理は、企業が ITサ ービスに対する顧客の需要を理解し、予測し、影響を及ぼすのうえで役立ちます。
サービス需要を正確に理解し、それに対応することで、企業は過不足なくサービスを提供することが可能になり、コスト削減と顧客満足度の向上を達成できます。通常、需要管理では次の3つの主要な活動が行われます。
分析
サービスデスクが収集するデータ(インシデント件数、リクエスト件数、問題数など)、ネットワーク使用状況、アップタイムを追跡することにより、既存客によるサービスの使用状況を分析します。
これらのデータは、事業活動パターン(PBA)と呼ばれます。PBA を使用することで、顧客によるサービスの使用状況における次のような構成要素を測定できます。
- 頻度
- 音量
- 期間
- 場所
予想
予想されるニーズについて顧客と話し合い、傾向を追跡し、データ分析を行うことで、将来のサービスで求められる要件について、情報に基づいた予測が立てられます。
影響
企業は、リスクとコストを軽減するために、顧客によるサービスの消費状況に影響を及ぼすべきときがあります。たとえば、顧客が予想を超えてサービスを大量に使用するとき、その需要を満たすために企業に多額の追加コストがかかる場合などです。その場合、ネットワークのスロットリングやサービスの超過使用に対する料金の請求など、金銭的または技術的な手段を通じて需要に影響を及ぼすことができます。
SLA、KPI、品質基準、予算制約を満たすためには、サービス需要の正確な予測が欠かせません。
5. ビジネスリレーションシップマネジメント
ビジネスリレーションシップマネジメント(BRM)は、優れた顧客関係の構築に重点を置いています。リレーションシップマネージャーは、顧客へのサービスの価値を最適化して、顧客の満足度とロイヤルティを維持することで、優れた顧客関係を築くよう働きかけます。
BRM プログラムを成功させるには、次の複数のプロセスが必要になります。
- 顧客との関係管理。
- サービス要件の特定。
- 新規顧客の獲得。
- 顧客満足度の聴取。
- 苦情処理。
- 苦情やインシデントの監視。
BRM は、ITIL ライフサイクルの各段階を通して、顧客からの質問に対応し、ニーズに応え、苦情に耳を傾け、これを解決する一貫した役割を果たします。
ITIL の「サービス戦略」段階は、多くのプロセスや役割、ベストプラクティスの指針となります。特に、Lucidchart の ITIL プロセステンプレートは、これらのベストプラクティスを学習し、常にサービス戦略を成功させるうえで役立ちます。
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